ご挨拶
指定難病であるレノックス・ガストー症候群・ドラベ症候群・結節性硬化症などは、小児期から成人期まで様々なてんかん発作が断続的に出現し、重度知的障がいを併発するに至る方もおられるなか有効な治療法がありません。わたくし個人としては難治てんかんに対して外科医療を提供する脳神経外科医です。薬物治療に抵抗する症例に対して外科手術を行うことで患者さんと多くの喜びを共有してきた一方で、このような難治てんかんに貢献できないもどかしさを感じてきました。その矢先、これら難治てんかんの治療を目的とした大麻抽出成分由来医薬品(Epidiolex)が、米国で承認されたのです。さらに、諸外国で治療薬としてその使用が開始され、一定の臨床効果をあげています。
「こんな薬剤があったら私の娘も幼児期を無難に乗り越えることができ、今ほど障害が残らなかったはずだ。なんとかこのお薬を導入して欲しい」と患者家族からの声が増えてきました。しかし、大麻取締法の制約があったのです。
2019年3月と5月の国会において秋野公造参議院議員の質疑に対して、国は、「大麻抽出成分由来医薬品および大麻由来薬物について、輸入も施用もできない一方で、治験は可能である」と答弁しました。初めてこの領域に日の目が当たり、治験の枠組みににおいて大麻由来医薬品及び薬物の活用に道が拓かれることとなったのです。
治験を実施するにあたり多くの課題が存在し、本研究班が設置されました。国内一流の研究者に指導的参画をいただき、諸外国で当該医薬品の適応となっている難治性てんかん患者、及び成人難治性疾患(難治性慢性疼痛・統合失調症等)の研究治療実態を明らかにするとともに、当該医薬品の治験に向けた環境を整えることを目的としています。
ひとたび治験が始まれば、治験担当医師は「大麻免許を取得して治験を行う」という未経験の領域を越えねばなりません。無事故で確実な臨床治験を行う方策を探り、治験結果を通じて1日も早くお薬を国民のみなさまにお届けできるよう日々精進する研究班でありたいと考えています。
聖マリアンナ医科大学 脳神経外科学准教授 太組一朗